プミポン国王陛下が崩御されてから10日。タイ国民の中には少しでも行いを見直して良い人間になりたいとの思いから、多くのボランティアや奉仕活動を行う人々がいる一方で、怒りや否定の気持ちと葛藤する人々もいる。奉仕活動に身を捧げたり行いを改める代わりに、タイ国民の国王陛下への愛を貶める行為をした人々を抑圧あるいは暴行したり、あまつさえ殺すと脅したりもするのだ。Khaosod Englishも、その標的になっているという。

今回は、10月21日16時03分に公開されたKhaosod Englishの社説「陛下への尊敬は、憎しみではなく愛をこめて」を翻訳してお届けする。

なお、記事の翻訳・転載にあたっては、すべてKhaosod Englishより正式に許可をいただいている。 

以下、転載。

社説:陛下への尊敬は、憎しみではなく愛をこめて

人は悲しみにとらわれた時、これを乗り越えてより良い方向へ成長することもあれば、感情の底に沈んでしまうこともある。

プミポン国王陛下が享年88歳で崩御されてからの9日間、タイはこの両方を経験した。 

悲しみと哀悼の意を亡き国父に捧げるべく王宮を訪れた人々は、多くのボランティアや奉仕活動を行う人々に心を動かさずにはいられないだろう。炎天下の中、高校生や大学生はなけなしのお金をはたき、あるいは寄付を募ってお菓子や黒リボン、パラセタモール(訳者注:鎮痛剤の一種)に至るまでを調達し、国王陛下に少しでも近づきたいと訪れる弔問者に配布した。

我々のバンコクオフィスの外では、とあるバイクタクシーの運転手が彼自身と同僚たちでサナームルアンを目指す人々のために無償送迎をすると言っていた。決して裕福とは言えない彼は、自分が求めないにも関わらず乗客が支払いをしてくれた場合は喜んで受け取るつもりだそうだ。

参考記事(英語):Altruism, Youth Dominate at Grand Palace as Nation Mourns

私が話した多くの人々は陛下の死を受け、たとえ少しでも行いを見直して良い人間になりたいとの思いを口にした。タイ国民にとってプミポン国王はほぼ神に等しい存在だ。私が木曜日と金曜日に王宮周辺を訪れた際、雰囲気は静かで秩序だっており、崩御当日と翌日の溢れ出すような悲しみの感情はみられなかった。国王陛下は仏教の輪廻転生の教えに従って次の世界に旅立たれたのだと、そこにいる人々は陛下の死を受け入れていたようにも思えた。王宮に向かって国王陛下のポスターを掲げていた女性は、友人が自分の写真を撮ろうとしたときに笑顔すら浮かべていた。

打って変わって怒りや否定の気持ちと葛藤する人々もいる。奉仕活動に身を捧げたり行いを改める代わりに、タイ国民の国王陛下への愛を貶める行為をした人々を抑圧あるいは暴行したり、あまつさえ殺すと脅したりもする。

国王陛下を侮辱したとされる人々の家が群集に取り囲まれ、非難を浴びる事件がパンガー県プーケットとサムイ島で起こった。今週上旬にはバス内で(後に知的障がいと判明した)中年女性が国王を中傷する言葉を発し、怒った他の乗客に引き摺り下ろされ暴行を受けるという事件がバンコクでも起こった。バンコクの東南にあるチョンブリ県でも、ある工場勤務者がフェイスブックに陛下を侮辱する書き込みをしたとして群集から殴られ、国王の肖像画の前に跪かされる動画が公開された。さらに水曜日には拳銃二丁とプミポン国王の肖像画を携え、不敬の人々を探して殺すと宣言する動画を公開したサムットサコーン県の男について、私自身が取材した。

私はスチャート・ムアンサムットというこの男のことを真剣に理解したいと思い、彼が公開した12分の動画を何度も再生した。

「陛下を、私たちの父をなぜ愛さない? 何がいけないんだ?」彼は苛立ちと憤怒をぶちまけた。

スチャートのような過激王党派とも呼べる人々は、宗教の原理主義者と同様に代替を受け入れることができず、現実と葛藤する。彼らはすべてのタイ人は生まれながらに国王を愛し、尊敬せねばならないと心底信じながら育ってきた。フェイスブック上で国王を侮辱するコメントを書き込む人々を見て非常に困惑したとスチャートは動画の前半で語っている。

スチャートは最終的に金曜日に警察によって身柄を確保されたが、脅迫罪での立件はされない見込みだ。警察からの情報によると、所持していた拳銃が合法的に登録されたものでない場合には立件の可能性があるという。ある人物からフェイスブック経由で入手した写真には、スチャートが二丁の拳銃と書類と共に写っており、その中で彼はラマ9世(プミポン国王)を意味するタイ語の9の数字が描かれた黒いTシャツを着ている。「ラマ」はヒンズー教の三位一体の守護神であるビシュヌ神が七度目に生まれ変わった姿を示す言葉から由来する。

チャンネル3で金曜日、数々の王室プロジェクトの責任者として広く知られているサメット・タンティベートコン氏が、プミポン国王の教えは今後数千年間タイ国民の中に生き続けるだろうとし、国王陛下はまるで仏教その他の宗教の「預言者」だと語った。これは大変興味深い。

また過激王党派による事件のニュースは英語で世界中に広まっている。

元ジャーナリストで「黄シャツ」派のスティン・ワナボボーン氏は自身のフェイスブックページで軍事政権に対し、スチャート容疑者のニュースに関連してKhaosod Englishに指導をするよう求めた。

「欧米諸国のタイに対するネガティブなニュースはKhaosod Englishの記事が根底にあると言いたい」

木曜日、スティン氏はこのようにフェイスブックに書き込んだ。「もしタイの評判をこれ以上貶めたくないと思うなら行動が必要だ。もう一度言う。国家は行動を起こすべきだ」

土曜日午後の時点でこの書き込みは109回シェアされ、499のいいねがついた。さらには群集によるKhaosod Englishのオフィス押しかけを呼びかけるコメントも1件ついている。

プミポン国王をまるで預言者や神のように愛し尊敬することにまったく問題はないし、国民にはそうする権利もある。しかし問題は一切の寛容無しに振る舞う宗教原理主義者のような過激派である。

国王陛下への愛の名の下、タイの人々は奉仕活動に身を捧げたり自らの行いを見直すことによって他者を啓蒙することができる一方、信心の浅い人々を脅し、恐怖に陥れ、殺人をほのめかすことさえすることもできるのである。