昨日こちらの記事でお伝えしたとおり、今、タイで大手ビールメーカー・チャーンビールによる芸能人を使ったステマ(ステルス・マーケティング)と見られる広告・宣伝が大きな騒動となっている。
芸能人のステマが大問題に! タイではSNS上でもアルコールの宣伝は禁止?!
ステマ自体は、タイでは珍しいものではない。芸能人やセレブのインスタグラムを見ているとステマらしき投稿のオンパレードである。今回の騒動は、対象がアルコールだったからこれだけ問題になっているのだろう。
タイでは原則としてアルコール飲料の広告・宣伝が法律で禁じられているが、まったくダメというわけではない。それではタイにおけるアルコール飲料の広告・宣伝についての規制というのはどのようなものなのだろうか。
今回は、以下の項目についてお届けしたい。
- アルコール飲料の広告・宣伝に関わる法律・府令
- 日系飲食店がメニューにビールの写真を使用したとして裁判になった事例
- タイ大手ビールメーカーのウェブサイトおよびSNS上での宣伝活動
それでは、まずはタイのアルコール飲料の広告・宣伝に関わる規制についてご紹介しよう。タイのアルコール飲料の広告・宣伝に関わる法律・府令は以下の2つがある。
1. アルコール規制法 [タイ仏暦2551年(西暦2008年)2月6日公布]
以下より引用
http://alhonet.jp/pdf/thailand.pdf
2. アルコール飲料の広告または広報のためのロゴマーク表示の原則および要件を定める総理府令 [2010年3月31日に官報公布、施行]
以下より引用
http://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/th/business/regulations/pdf/corporate_2_2010.pdf
まず1.のアルコール規制法について、始めにアルコール飲料の販売手段や形態についての条文を見てみよう。
アルコール規制法 第30条
第30条
以下の手段または形態でアルコール飲料を販売してはならない。
(1)自動販売機の使用
(2)移動販売
(3)販売促進のための割引
(4)競技やパフォーマンスの入場券や賞品を与えたり、これらを獲得する権利などの特典を与えること。またはアルコール飲料を購入した者や、アルコール飲料の包装、ラベル、その他の資材を持参した者に、それと引き換えたり取引するような形で何かの特典を与えること
(5)アルコール飲料を配ること、無料で提供すること、アルコール飲料または何かの製品やサービスの提供などと交換すること、サンプルとしてアルコール飲料を配ること、アルコール飲料を飲むように人々を誘導すること、アルコール飲料を購入することを直接的間接的に強いる方法で販売する状況を作ることも含む
(6)委員会の承認のもとで大臣が通告した手段や形態でアルコール飲料を販売すること
(条文ここまで)
特に注意したいのは、販売促進や特典、無料サンプリングが禁止されている点だ。販売促進のための割引も厳格に運用されると、タイでよく見かける「Buy 1 Get 1 Free(1杯注文すれば1杯無料)」というプロモーションや単純なディスカウント、飲み放題、というプロモーションも不可ということになる。
実際のところBuy 1 Get 1 Freeなどは、タイローカルの飲食店でも当たり前に行われている。このあたりは当局も大目に見ているということなのだろうか。
タイのフリーペーパーでもこういったプロモーションはよく見かける
それでは続いてアルコール規制法の広告・宣伝に関わる条文を見てみよう。
アルコール規制法 第32条、43条
第32条
品質を誇大に見せたり、直接的に間接的に人々を飲酒に誘導したりするようなアルコール飲料の名称や商標を、宣伝や展示に使用してはならない。
すべてのアルコール飲料の製造会社による、すべての宣伝あるいは広報は、情報あるいは製造上の知識を提供する目的においてのみ実施可能である。製品やパッケージの写真は表示することはできないが、そのアルコール飲料のシンボルまたはアルコール飲料の製造会社のシンボルを示すことはできる。その際は、大臣の法令に従うものとする。
第1段および第2段の規程は、タイ王国の国外で制作された宣伝には適用されない。
第43条
第32条に違反した者は、1年以下の禁固、または50万バーツ以下の罰金、もしくは併科に処される。
第1段に基づき課せられた法的責任のほかにも、違反者は違反行為をした機関の1日につき5万バーツ以下の罰金に処される。
(条文ここまで)
飲酒を誘導するようなものは不可だが、広告・宣伝自体が禁止されているわけではない。広告には製品やパッケージの写真は使用できないが、アルコールのブランドロゴやメーカーのロゴは使用できるとされている。
国外で制作された広告・宣伝にはこの条文は適用されない。
広告に使用できるロゴの大きさは、「アルコール飲料の広告または広報のためのロゴマーク表示の原則および要件を定める総理府令」で以下の通り定められている。
広告に使用できるロゴマークの大きさについての規定
アルコール飲料の広告または広報のためのロゴマーク表示の原則および要件を定める総理府令
第4項
第2項に基づくアルコール飲料のロゴマーク、またはアルコール飲料製造会社のロゴマークの表示は、以下のように各メディアごとの原則に従う。
(1)テレビ、映像上映、映画、ビデオ、電子機器による映像表示事業のメディア使用、または同じようなその他のメディア使用の場合、ロゴマークは全広告スペースの5%以下の大きさでなければならず、かつロゴマーク表示時間は全広告時間の5%以下、2分を超えないものとし、22時から5時まで広告できる。ここに当該ロゴマークは広告の終のみに表示する。
(2)印刷メディアの場合は、ロゴマークの大きさは、全広告スペースの5%以下でなければならず、表紙、裏表紙、背表紙、または当該印刷メディアの梱包物に表示することを禁じる。
(3)(1)及び(2)以外のメディアの場合は、ロゴマークの表示スペースはそのメディアにおける広告スペースの3%以下でなければならない。
ここに、アルコール飲料のロゴマークまたはアルコール飲料製造会社のロゴマークの表示がある時はいつでも、毎回「アルコール摂取に対する」警告内容を表示する。その警告内容の形態は管理委員会が布告規定したところに従う。
(条文ここまで)
ロゴマークの大きさは映像メディアと印刷メディアの場合、全広告スペースの5%以下、その他のメディアの場合、3%以下に収めなければならない。さらに「アルコール摂取に対する警告内容」の表記も必須である。
ビール会社の誌面広告に記載されている警告文
それでは、この2つの広告に関する規制はどの程度厳格に運用されているのだろうか。
アルコールの広告・宣伝に関わる実際の事例として、日系飲食店がメニューにアルコールの写真を使用したとして裁判になった事例をご紹介しよう。
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